エコテックス国際共同体

【CROSS TALK】「売る」×「作る」の協業が実現させた未来へ向けた取り組み

【CROSS TALK】洋服の青山 x 株式会社スミテックス・インターナショナル

「売る」×「作る」の協業が実現させた
未来へ向けた取り組み
− エコテックス認証をスタンダードに −

青山商事株式会社
執行役員 宮前俊光氏 (左)

株式会社スミテックス・インターナショナル
執行役員 梅本達也氏 (右)

貴社の企業理念と、アパレル業界におけるスタンスについて教えてください。

梅本氏:スミテックス・インターナショナルは、住友商事をバックグラウンドに原料・素材から企画、生産、物流までを一貫して手がける繊維専門商社です。海外での適地生産、現地内販、欧米向け等のグローバルサポート機能を更に強化しながら「グローバルな総合力を提供する Best solution provider」として歩んできました。消費者にとってはもちろん、社会、そして地球にとっても優しい製品を押し出していくことが、弊社に関わるすべての方々の豊かさに繋がる。そうした考えのもと、経営ビジョンとして「活力ある繁栄」「お客様の満足と喜びの提供」「社員の豊かな生活」を掲げ、日々着実に進歩を続けています。

【写真】宮前 俊光 氏

宮前氏:青山商事は「洋服の青山」をはじめ、ビジネスウェア事業を中心に展開する企業です。創業からの企業理念は「より良い物をより安く 洋服の販売を通して社会に貢献する」。私たちのような専門店が流通革命を起こして物価を下げれば、消費者はより多くのお金を自由に遣えるようになります。みなさんに豊かな生活を届けることが、社会への貢献に繋がるはず。さらに安価で高品質な商品を提供するだけではなく、消費者の安全や地球環境に配慮した物づくりをしていくことで、たしかな信頼を得ることも大切だと考えています。労力やコストはかかりますが、紳士服業界のリーディングカンパニーとして私たちが果たすべき使命だと思っています。

エコテックス認証を知った経緯と、取得に至った理由は?

梅本氏:2012年1月に、有害物質である「特定芳香族アミンを生成するアゾ染料」を含む家庭用品の販売規制が始まることを知り、その際にアゾ染料の検査実施等を調べる過程でエコテックスの存在を知りました。当時、ASEAN及びバングラデシュの工場を見て回っていたところ、エコテックス認証を受けている企業を多く目にしました。そこから詳しく調べていくと、私たちの青山様向けシャツの生産工場において、そのグループ及び資材仕入先の多くがエコテックス認証を持っていることが分かったのです。私たちのお客様が海外にも多く進出されていくなかで、製品の安全基準は各国それぞれ。日本の基準だけではカバーできない項目もあるため、どの国においても対応できる製品が今後必要になるはず。ならば私たちも製品でエコテックス認証の取得ができないだろうかという考えに至りました。

エコテックス認証を取るまでに苦労したことは
何ですか?

梅本氏:製品としての認証を取るには、使用されている資材の全ての安全性が確認されていることが必要となります。シャツ1着にも20を超える資材が使われていて、その資材の原産国もさまざま。布地はもちろん縫製糸やボタン、さらにシャツの襟の内側には品番、サイズを製品にダイレクトに印字しているのですが、このインクにも安全性の確認が必要になるんです。これら一点一点の認証取得・確認にはとても苦労しましたね。

【写真】梅本 達也 氏

エコテックス認証商品の具体的な販売ターゲット層を教えてください。

宮前氏:私たちはまずYシャツからエコテックス認証を導入することにしました。クリスチャンオラーニの商品74種類などでの展開です。ターゲットにしているのはもちろんすべてのお客様ですが、メインは30〜40代のビジネスマン、特にニューファミリー層です。小さなお子さんがシャツに口をつけるなどして気になることがありますよね。そんなときもエコテックス認証の製品であれば、気にすることなく安心していただけるのではないでしょうか。

なぜYシャツから取り組むことに
なったのでしょう。

宮前氏:Yシャツは毎日お客様に着ていただく商品ですよね。日々体に触れるものですから、当然安全面は気になるはず。安全安心と言われ信頼されてきた日本の製品ですが、私たちはさらにその先にある世界基準の安全性を身近なところから実現したいと考えました。また、弊社のYシャツのサイズ展開は体系別に多くの種類があり、外国のお客様も気軽にご購入いただけるようになっています。外国に旅行に出かけた先で、わざわざ試着をして購入するというのはハードルが高いですよね。ですがサイズが明記してある商品であれば、気軽に手に取っていただけるのではないかと。

【写真】製品

商品を作り販売するうえで、大事にしたことは何ですか?

宮前氏:エコテックス認証を取得するには、とても大きな手間とコストがかかります。ですがそれにも関わらず、価格は従来の商品と同じ4900円(税別:2017年12月現在)での設定となっています。「同じ価格でより良いものを提供できる」ということが、この商品の大きな価値となっているのです。エコテックス認証自体は特別なものではなく、あくまでスタンダードとして広まっていくべき存在です。お客様にも自然と認知され、選んでいただけるものであってほしいと考えています。

いまエコテックス認証を取得する意味とは?

梅本氏:エコテックス認証は全世界で約16,000取得されています。日本では3%弱ですが、アジアでは56%、ヨーロッパでは38%と非常に多くの認証取得がされています。日本ではエコテックスの浸透はこれからという段階で、取得している企業もまだ少数です。ヨーロッパでは当たり前となっているものを先駆けて取り入れる、それだけで大きなアドバンテージになるでしょう。

宮前氏:これまでも環境に配慮した取り組みを進めてきた弊社ですが、私たちにできることはまだまだ広げられるはず。そう考えるなかで、日本ではまだ広くは周知されていないエコテックス認証という存在にたどりつきました。この業界はどうしてもデザインやコストが最優先されがちで、安心・安全という問題に取り組む企業が少ない。ならば全国に店舗があり、多くのお客様に情報を伝える手段を持つ私たちが、マーケットに新たな認識を広めていきたい。「売れればいい」ではなく、そうしたしっかりとした認識のもとで皆さんに支持していただきたいのです。エコテックスラベルを率先して広げていくこともまた、私たちの使命の一つだと考えています。

2020年には東京オリンピックの開催が控えていますが、
それに向け、海外の顧客の目を意識している部分はありますか?

宮前氏:もちろんです。日本のものづくりの精度やこだわりに対する姿勢は、すでに世界でも認められていると思いますが、それだけではなく、今後はやはり世界基準の安全性というものが求められるようになるでしょう。エコテックスラベルをつけた製品であれば、その条件を確実にクリアできます。「安心・安全」という日本らしさを、目に見える形で世界に示すことができるのは非常に大きいですね。

梅本氏:2020年の東京オリンピックでは、世界中の人々が日本に来られます。もはやエコテックス認証は「世界の共通言語」とも言える存在ですから、たとえ日本語が分からなくとも、エコテックスラベルを目にして手に取られるお客様がいらっしゃるでしょう。また、現在のアパレル市場において、EC市場が重要であることはよく知られていますが、そこでエコテックスは「持っていなければビジネスのフィールドに上がることができない」というほど大きな存在になっていければ良いですね。日本に来られるお客様だけでなく、ECサイト上において世界のユーザーとも繋がることができるようになります。

今後の展開について教えてください。

宮前氏:スーツなどの重衣料は軽衣料と比べると付属品等のパーツが多く、製造工程も複雑なので、すぐに展開することはなかなか難しいですが、まずはネクタイなどの軽衣料やドレスシャツでの展開を軌道に乗せ、徐々にアイテムを増やしていきたいですね。

梅本氏:私たちが次の目標としているのは弊社が起用するシャツ工場での【STeP(ステップ)】の取得です。エコテックスには、製品認証の「スタンダード100」以外にもさまざまな認証が存在しますが、【STeP】は排水や労働環境なども含めた企業や工場の包括的な認証になります。人に優しくあること、さらに環境のみならず、そこで働く人々の安全と衛生が保証されることが社会貢献に繋がる。工場側とさらに話し合いをかさね【STeP】取得が出来ればと考えます。ハードルはさらに高くなりますが、せっかくの取り組みをさらに進化させることができればと考えています。

【写真】製品【写真】製品

今後、エコテックス認証はアパレル業界の中でどんな存在になっていく、
あるいはなっていってほしいと思いますか?

梅本氏:日本ではまだ、エコテックス認証も広く周知はされていません。せっかくの世界基準の安全認証ですので、「エコテックス」という新たなブランドとして愛されてほしい。これから先、アパレルにおけるお客様の価値観は、さらに多様化することでしょう。コストパフォーマンスが良い商品、こわだりを持った一点、美しいシルエット、機能素材などと並ぶ新たな価値として、「世界基準の安心・安全」を手に入れたいというファンが増えていってくれれば嬉しいですね。

宮前氏:世界基準のエコテックス認証の取得がアパレル業界の中で広がれば、衣料品の安全性に対する消費者の「信頼」が格段に高まります。また、業界全体の社会的価値を高めることにもつながるでしょう。
より多くのエコテックス認証された商品を生活者に届けること。さらに商品を売るだけではなく、エコテックス認証の社会的意義を丁寧に購入者に伝えること……これは、消費者にもっとも近い存在である私たち小売業の使命なのです。今回のエコテックス認証の取得は、ゴールではなくスタート。今はまだ特別なものとして認識されるかもしれませんが、将来的にはこれがスタンダードとして浸透していくべきだと思っています。